21世紀のボードビリアン
バロンなかざわの懐かしくて新しいジャズソングは傾聴に値する
フォーク・メッセンジャー マスダ昭哲
ヴォードヴィルまたは、ボードビル(vaudeville)及びそれを
演じるボードビリアン(Vaudevillian)という言葉も絶えて久しい。
今の若い人たちには聞き慣れない言葉だろう。
元々は米国発祥の歌や踊り、手品、漫才などの寄席芸であり、
チャップリンやキートンらサイレントコメディ映画のスターも
ボードビルを経て映画界へ入ったときく。
日本でも戦前から、榎本健一(エノケン)・古川ロッパら和製
ボードビリアンが浅草を中心に活躍し、その系譜は、川田義雄(晴久)らの
あきれたぼういず、戦後のトニー谷、そして渥美清に連なっている。
しかし、今日、いわゆるしゃべくり漫才、米国で言うスタンダップ・
コメディアンが全盛となり、ボードビリアンと呼べる芸人は皆無と
なってしまった。そもそも正しいボードビリアンとは何かと考えると、
私感であるが、まず何より唄って踊れる(動ける)かであり、言葉で
笑わせる前に、タップダンスやパントマイム、楽器も含めた軽演劇
全般、総合芸人としての資質、才覚が求められる。そんな人はもういない。
と、嘆いてSP復刻で岸井明を聴き込み、こういうモダンで洒落た
ジャズソングを唄える人もそれを舞台で演ずる人も今の世にいるわけないと
思っていたときに偶然出会ったのが、バロンなかざわ君である。
幼少期にチャップリンの映画と出会い、十代でオーストラリアに留学し
当地の路上アーチストや芸人に影響され芸人を志したという彼は、2000年
に帰国し上京後、芸人活動を開始する。
そのステージは、大劇場であれ路上であれ、時と場所を選ばない。彼が
ウクレレ片手に唄いだしタップを踏み、マイムを演ずるとき、そこには
大好きだった懐かしいかつてのボードビリアンたちの姿が浮かんでくる。
バロンなかざわこそ正しいボードビリアンの系譜を今に継ぐ者である。
しかもノスタルジーだけではなく、今日的に新しい。今風でありすごく
モダンである。うたには21世紀のジャズソングのあり方が示されている。
個人的には彼こそ現代のフランキー堺だと思っている。洒脱な軽み
と巧みなリズム感、抜群のバランス感覚、そしてペーソス溢れる
歌声。面白くて懐かしくて少しだけしんみりさせる。この持ち味は
他の誰にも代えられない。しかもまだ30代に入ったばかりだと聞く。
ならば日本のボードビルの未来は明るいではないか。
そんな彼が気の合う仲間たちとオリジナルソング中心に初のCD
アルバムを作った。彼を応援して来た者として自信を持って世に出したい。
まずは聴いて欲しく思う。しかし、彼の本領はスタジオの中にはない。
CDを聴いたら次はぜひ彼の舞台を見て欲しい。バロンとは寄席芸人、
今日では稀有な本物のボードビリアンなのだから。